WASEDA KENCHIKU 25YEARS LATER

卒業生の25の回答から見えてくるもの

約80名の「卒業生の25の回答」結果から何がわかる?

「私のプロフィール」という授業を覚えていますか?1年生時に授業の一環で書く(書かされる)自己紹介プレゼン。自分が何者で、何に興味があるのか?将来何になりたいのか。

恥ずかしげもなく書いていたもの、あれ、早稲田大学建築学科に残されているのです。(記憶から消し去りたい)

 

あの、「私のプロフィール」を現代で描き直してみたら。それがこの「卒業生の25の回答」です。

そこから何が見えてくるのでしょうか?

せめて、学生の皆さんのなんかの足しになってほしい。それが私たちの願いです。

学生の皆さんにとって、25年以上の先輩はもうおじさんであり、おばさんです。縁遠い存在に感じるかもしれません。

でもそんな人生の先輩になってしまった私たちだって、かつては学生で、それぞれ夢を抱いて建築学科の門をくぐったのです。

 

*アンケート

 

Q1.建築学科を志したきっかけは何でしたか?

「卒業生の25の回答」の結果から、ChatGPT5の力を借りて、9つに回答を分類しました。

A 理系と芸術の融合的分野への興味・・・数理的思考と芸術的感性を融合できる学問として建築を志したタイプ。
B 家族などの影響・・・・・・・・・・・家族や親族が建築・設計業に関わり、その影響で建築を身近に感じたタイプ。
C 建築の具体的な体験の影響・・・・・・実家の建替えや設計士との出会いなど、具体的体験を契機に興味を持ったタイプ。
D 建築作品、作家、都市の影響・・・・・実際の建築・都市・雑誌など、実作との出会いから刺激を受けたタイプ。
E モノづくりへの関心・・・・・・・・・模型・造形など“つくること”そのものへの興味から建築を選んだタイプ。
F 社会まちづくりへ関心・・・・・・・・建築を通じて社会・人・まちに関わることを目指したタイプ。
G 推薦や偶然・・・・・・・・・・・・・推薦や偶然など外的要因で進学したタイプ。内発的動機が弱い。
H 暮らしや生活への関心・・・・・・・・人の暮らしや住まいを豊かにすることに関心を持って建築を志したタイプ。
I デザインへの憧れ・・・・・・・・・・建築家・デザイナーという職業や造形表現への憧れから選んだタイプ。

 

回答の結果をみると、その答えはさまざま。分類もまとめたとしても9分類にも上ります。
建築の分野としての幅広さが伺えます。

進学動機の中で、最も多かったのは、モノづくりへの関心、そして同率で建築作品、作家、都市の影響でした。

建築の仕事をする家族の影響があったのは、70名中、8名でした。

それより影響が多かったのは、建築が論理的な思考と芸術的感性が融合する学問であることの関心(3位)です。

デザインやデザイナーへの憧れは同率8位と、意外と少ないことも特徴です。

【仕事に関する質問】

Q2.今どんな仕事をしていますか?

建築設計系が最も多く、70名中23名でした。

医者が2名いるのが驚きです。

Q3.その仕事を選んだ理由はなんですか?

仕事の選択理由が、専門性を継続するもの(22名)が多くいた一方で、建築の領域をはば広く捉え不動産など建築を扱う領域に拡張しているもの(14名)や他の領域に転換している者(10名)も多いことが特徴です。

組織的要請、家族の事情など外的要因で仕事を選択している者が7名ほどいるのに対し、独立、自己実現をしているものは5名でした。

Q4.今の仕事は楽しいですか?

「卒業生の25の回答」を回答した70名の中では、「楽しい」「どちらかといえば楽しい」と感じるのがあわせて96%で、大多数が楽しさを仕事に見出していることがわかります。(なんだか嬉しい)

一方で、「楽しくない」は、この回答者からは見出せませんでしたが、「どちらかといえば楽しくない」と応えた4%や、そもそもアンケートに回答していない同級生もいるため、もちろん、この結果から仕事が楽しくない人がゼロであるということにはなりません。設問に答えづらいという側面もあることに留意してください。

Q5.その楽しさはどのようなものですか?

回答いただいた65名の自由回答の内容から、6つの分類を抽出しました。

チャレンジ(挑戦)・・・・・・難題への挑戦/未知への試み/新しい技術や環境への適応・責任ある挑戦
人から喜ばれる・・・・ ・・・クライアント・利用者・学生・市民などに喜ばれ、感謝されること
プロセスの楽しさ・・・・・・試行錯誤・協働・形になる過程・プロジェクトの進行そのもの
自分らしさ・関心・成長・・・自分の興味・特性が活かせる/成長や学び・発見がある
社会に役にたつ・・・・・・・社会課題・まちづくり・教育・環境・医療などへの貢献実感
裁量・自由度・・・・・・・・自分で決められる/責任ある立場で進められる/経営・企画・判断の自由

結果は、「自分らしさ、関心、成長に関するもの」が一番多く、次いで仕事の「プロセスの楽しさ」「社会に役にたつ」と続きます。
人から喜ばれるという体験を大切にしている者や、社会に役にたつという外からの評価を大切にしている者がいる一方で、内的な動機に楽しさを見出している者もいることがわかります。
また、出世や地位についての回答は一つもありませんでした。

Q6.今、仕事を通して社会課題と向き合っている意識はありますか?

社会課題に向き合っている、という回答が大多数でした。

 

ではどんな社会課題に向き合っているのでしょうか?

Q7. どんな社会課題と向き合っていますか?

自由回答をChatGPT5で分類し、統計を作成しました。

地域、まちづくり・が最も多く、経済・産業構造、環境・持続可能性、少子高齢化・人口動態と続く結果となりました。

 

 

この学年は仕事をどう捉えているか

「卒業生の25の回答」を回答した卒業生の多くは、仕事に楽しさを感じており、また社会課題にも向き合っていることがわかりました。楽しさの分析から、チャレンジができる環境を持ち、人から喜ばれる仕事であり、自らの成長や、社会に貢献すること実感する仕事に恵まれているという結果が見えてきました。

【生活や幸福度に関する質問】

Q8. 今の生活は楽しいですか?

回答者は生活においても多くが楽しさを見出していることがわかりました。一方。3%のどちらかといえば楽しくない、という意見も。

Q9. どう楽しいですか?

自由回答にてどのように楽しいかを記述してもらったものを、仕事に関することか、生活に関することか、それとも両方なのかを筆者が分類しました。

結果、両方と回答した者が45%おり、仕事も生活もどちらも楽しさを獲得している同学年の様子が見えてきました。

Q10.幸せの総和を100%として、仕事と生活の割合はどの程度か

 

生活と仕事、どちらに幸せのウェイトがあるかを回答いただきました。結果として、両立しているところに回答が集中したものの、全体として仕事にウェイトが多いことがわかりました。

キャリアをしっかり確保しつつ、しっかり生活の幸せを確保しているものがいることも注目ポイントです。

 

 

キャリアと生活のバランス

この質問を考えたのは、キャリアのためには生活を犠牲にしなければならないのではないかと筆者自身も学生時代に不安を感じていたからです。

人それぞれであることは前提ですが、両方とも追い求めている人が結構いることが、このグラフからわかります。

学生との交流会でも、学生から心配の声が聞かれました。ぜひ参考にしてみてください。

【早稲田大学の建築学科の教育の影響】

Q11.建築学科で学んだことで、今のあなたに影響していることはありますか?

97%が、建築学科で学んだことで、今の自身に影響していることがあると答えています。

Q12.今のあなたにどう影響していますか?

回答を元に、大分類4、全体では、10に分類しました。

 

分類
1.リベラルアーツ的な側面(教養としての建築)

A 思考法・問題発見力
B デザイン・感性(横断的領域)
E 世界理解、社会・文化への視点
G 自己形成・価値観
D 精神的基盤(倫理的姿勢)(横断的領域)

2.プロフェッショナルな側面(専門性としての建築)

B デザイン・感性(横断的領域)
F 専門知識・技術
C1 教員・教育者の影響

3.フォルマティブな側面(人間形成・関係性)

C2 同級生・仲間の影響
D 精神的基盤(倫理的姿勢)(横断的領域)

4.横断的な領域

B:デザイン・感性(横断的領域)
D 精神的基盤(倫理的姿勢)(横断的領域)

 

建築の領域としての専門的な領域、リベラルアーツ的な領域があり、また切磋琢磨する中で磨かれる人間形成や関係性のフォルマティブな領域があり、さらに、横断的な領域であるデザインや精神的基盤が形成されるということが浮き彫りになりました。

その上で、リベラルアーツ的な影響が最も大きく、プロフェッショナルな領域よりも、フォルマティブな影響(例えば先生の影響や同級生との切磋琢磨)などが大きく影響していることがわかりました。

この特徴が他の大学の建築学科でも同様なのかはわかりません。しかしながら、「卒業生の25の回答」の結果からも、早稲田大学の建築教育の特徴として「リベラルアーツ的側面としての建築」の特徴を見出せるのではないでしょうか?

【就職氷河期の影響とは】

就職氷河期の時代に私たちは社会に飛び出した。その影響はどのようなものだったのでしょうか?

Q15. 就職氷河期であることや不景気であったことは、進路に影響しましたか?

進路に影響/影響してないで二分される結果となりました。

 

Q16.就職氷河期であることの影響は、ポジティブなものでしたか?ネガティブなものでしたか?

影響がポジティブ側に働いたものが半数以上。ただ単にその影響で流されたのではなく、ポジティブに捉えた強さが見られます。

一方、影響がネガティブ側だった者もおり、やはり社会的環境の影響の大きさを感じぜずにいられません。

Q15,Q16のクロス分析

氷河期の影響を受けたものだが、それをポジティブに感じている者、氷河期の影響を受けていないが、ネガティブに感じている者、など4章源に分けてみました。

 

A.影響した×ネガティブ  ・・・19名

B.影響した×ポジティブ  ・・・17名

C.影響してない×ポジティブ・・・24名

D影響してない×ネガティブ ・・・9名

アンケートから見られる特徴をそれぞれ分析すると、以下のような特徴がわかりました。

A.影響した×ネガティブ

就職難による制約、閉塞を実感した層。記述に「入れなかった」「少なかった」「門をこじ開ける」など具体的な困難を表現。時代を生き抜いた証言者たち。構造的課題を身をもって経験した(している)。

B.影響した×ポジティブ

困難を自己成長の機会として捉えている層。「結果的に良かった」「気づかせてくれた」など試練を通して変化に適応した。異業種・海外・新領域へ進出する柔軟性を持っている。

C.影響してない×ポジティブ

環境に左右されず、安定職種についた強者たち。外的波風に動じず、静かに自己実現を果たした安定型。社会変動を受け止めながらも、信念に基づき歩む「静かな強さ」を持つ

D.影響してない×ネガティブ

「自分は大丈夫だった」が、「社会は健全でない」と見る観察者的層。公共性・制度的課題への関心が強い。構造の歪みを見抜き、世代の中で“社会的目線”を持ち合わせる層である。

 

就職氷河期の影響は?

氷河期を経験し、今なおキャリア形成において難しさに直面している者もいる一方で、時代は時代として捉え、強く生き抜くというレジリエンシーを持ち合わせた者もいることがわかります。
氷河期であるからこそ、就職を当たり前にせず自分らしさを追求する者もいることで、当たり前を疑ってきた世代でもあるのです。
一概に良かった、悪かったなど断罪することは難しいですが、時代を生き抜いた世代の特徴として受け止めたいと思います。

【海外での経験】

Q18.早稲田在学中、あるいは卒業後、海外での経験はありますか?

海外経験があるものが約半数いるのも特徴的です。

Q19.どうして海外に行こうと思いましたか?

海外に行く理由は仕事や学びのために行っている者がほとんど。

海外での経験については、こちらのページをご参考に。

 

【建築、ものづくりとの関係】

卒業生は、卒業しても建築やものづくりとどのような関係を持っているのでしょうか?

Q23.あなたの仕事はものづくりあるいは建築と関係していますか?

92%がものづくり、建築に関係した仕事に従事していると答えています。

10年に一人の天才を産めばいいんだと教授に言われて驚いた1年生の授業の一コマ。
あれから30年近くたち、10年に一人の逸材は私たちの世代からは育っていないかもしれませんが、それでも建築/ものづくりにまだまだ関わり続けている者が92%もいる、ということを、タイムマシンに乗って、学生だった自分に伝えたいです。

Q27.お仕事、生活を通して建築、ものづくりのどのあたりのプロセスに関わっているか

学生時代に建築で学んだことのうち、最もウェイトが高かったのは、私にとっては設計演習などの設計課題でした。

ところがそれは建築に携わるプロセスの一部だということを社会人になると痛いほど実感します。
建築の仕事は基本計画や基本設計、実施設計だけではありません。大学ではこのあたりをたくさん学びます。

しかしながら、その前後にさまざまな業務があり、それぞれが建築をものづくりを行うプロセスとして重要な役割を担っています。

回答からもわかる通り、基本設計、実施設計に関わるものが多いのはもちろん、それ以外の領域でもプロセスに関わっている人たちがこれだけいるということを若い人たちにはぜひ知っていただきたいのです。

私も大学の時はそのような領域のことについては深く知りませんでした。社会に出てからも学ぶことは多く、大学以降の学びや経験の結果、建築のプロセスについて、より深く、より幅広く知っていくのです。
大多喜にいく考現学的な調査で現況調査を行なったりするのは、もう一つの早稲田の特徴かもしれません。

また、この回答から、一気通貫で全てのプロセスに関わっているという人も少なくない数いました。彼らは建築を発注する側から見ています。建築、ものづくりを深く知るだけでなく、幅広く知る、という機会が社会に出るとたくさんあるのです。

だからといって、学生時代から幅広い領域のことを知っておく必要があるのか?
私自身は、社会に出てからたくさん知ることの基礎は、大学で学ぶ建築の教育でできていると思っており、幅広い領域を学生時代に焦って学ぶ必要はないと考えていますが、人によって感じ方は違うでしょう。

いろんな答えがあると思います。卒業生の個別の回答(限定公開)を見ていただいて、ぜひ考えてみてください。

 

 

 【回答全体を通して】

現在の仕事や生活と、建築学科で学んだことにどのような関係があるのか?

私自身もあまり意識したことがない事柄でした。しかしながら、「卒業生の25の回答」を集計していくうちに、改めて早稲田で学んだこと矢面にたって汗をかきながらプレゼンしたことなどを思い返し、今の自分にとってかけがえのない時間だったことを思い返す機会になりました。

きっと設問に答えてくれた約80名の同窓生も同様だと思います。

ぜひ、パスワードを持っている在校生、卒業生の皆さんは、それぞれの回答にもアクセスできますので、そちらをご覧いただければと思います。これからの若者たちにとって、この機会が何らかの役に立つことを切に望んでいます。

この設問を作成するにあたり、ご協力してくださった現役の学生さんたち、そして貴重な時間を使って回答してくれた同級生の皆さん、ありがとうございました。また、この機会をいただきました、稲門建築会の皆さんにもお礼を申し上げます。

文責 岩本唯史(早稲田建築合同クラス会2025実行委員長)