WASEDA KENCHIKU 25YEARS LATER

海外女子座談会

海外女子座談会 ~多様な国で生きる・働く・考える~

はじめに
本座談会は、建築やデザインの分野で海外で活躍する日本人女性たちが、それぞれの国での暮らしや働き方、価値観の違い、そして学生や若い世代へのメッセージについて率直に語り合ったものです。
参加者はフランス・パリのなおり/山添 奈織、ベルギーのいづみ/本郷 いづみ、シンガポールのみっちー/川邊 真代、中国のまり/佐々木 真理、の各国で活躍する4名。聞き手は日本で働くさえ/村上 佐恵子、ちひろ/岩間 ちひろの2名です。
各国の特徴やお国自慢、現地で感じた驚きや困難、そしてグローバル社会で生きるヒントを、実体験をもとに語り合いました。

1. 自己紹介と現在の仕事、海外で働いたきっかけ

まり(中国)
私はもともと神奈川県の建築設計会社に勤めていましたが、2017年11月から中国・広州に拠点を移し、子どもや教育・福祉施設の設計を中心に活動しています。中国では自身がトップを務める小規模な設計事務所で、現地スタッフとともに7人ほどのチームで仕事をしています。中国に来たきっかけは、日本から中国の仕事を受けていた際、送金や契約の障壁が多く、「それなら現地に会社を作ろう」と思い立ったことです。以来、現地での設計・マネジメントに携わっています。直近では、カザフスタン、ジャカルタ、ソウル、日本の仕事にも関わっています。

みっちー(シンガポール)
私はシンガポールを拠点に、インバウンド顧客一人ひとりの希望や目的に合わせて、完全オーダーメイドの旅行プランを企画・手配するビスポークトラベルエージェント※を運営しています。
以前は設計事務所や不動産・民泊プラットフォーム事業に携わっていましたが、現在は旅行業に軸足を移し、東南アジアやアメリカのお客様を中心に、日本での体験型ツアーを提供しています。シンガポールへの移住は、子どもの教育環境と自身の仕事の両立を考慮した結果で、もうすぐ8年になります。

いづみ(ベルギー)
私は大学院卒業後、広告代理店に就職してコピーライターをしていました。でもファッションの道が諦めきれず、2005年ロイヤルアカデミーアントワープでファッションを学ぶために留学し、そのまま現地でファッションデザイナーとして独立しました。ベルギー生活は、今年でちょうど20年になります。近年は建築のテキスタイルデザインにも携わっています。

なおり(フランス)
私はフランス・パリで展覧会のセノグラファー※(展示デザイン専門家)として活動しています。学芸員やキュレーターと協力し、展示空間の設計や照明・色彩・動線計画などを手がけています。フランスには大学院時代の留学をきっかけに渡り、その後も現地のジャン・ヌーベル建築事務所で経験を積み、独立しました。パリでの生活は24年になります。

 

2. それぞれの国で直面した驚きや困難

さえ(日本)
みなさんが今住んでいる国で、普段の生活や仕事をしていて“驚いたこと”や“苦労したこと”があれば、ぜひ教えてください。

なおり(フランス)
フランスは自由と個性を大切にする国で、他人の意見に左右されず自分らしく生きる人が多いです。お金がなくても気にせず、仕事がなくてもなんとかなるという価値観があり、生活の自由度が高い。バケーションはみんな年間2か月くらい取り、互いにカバーし合いながら効率よく働く環境があります。自由な反面、ストなどで公共交通機関が止まるなど不便なことも多いです。
困っていることは、、、公共事業に携わることが多くフランス語でのプレゼンにはいまだに苦労しています。

まり(中国)
中国は教育熱心な国民性があり、子どもへの投資も盛んです。現地で会社を設立し、銀行口座を開設するなど、制度面での違いに最初は戸惑いましたが、現地の人々の勤勉さや前向きさに刺激を受けています。失敗してもすぐに切り替え、転職も一般的。合わなければすぐに新しい職場を探すのが普通で、長く同じ会社に勤める人は少ないです。
みんなで協議するシステムがあまりなくとにかく決断が早く、来週や来月、早いと明日から変更というアナウンスがあったり、それは日本とは大きく異なる点だと思います。

みっちー(シンガポール)
シンガポールは多民族・多宗教社会で、さまざまな価値観が小さい都市に共存しています。現地で驚いたのは、効率を追求する一方、宗教や民族の価値観の違いに寛容だということ。例えば、会社の打ち合わせ中にお祈りの時間だと中座したり、インドネシアの人が「今日はゴーストがいるから外出できない」と言うことも。シンガポールは母国語が四か国語あり、公的な書類はすべて四か国語で記載されていたり、会社でも英語と中国語とマレー単語がまざった独特な言語が飛び交います。

いづみ(ベルギー)
EU本部があるため、ヨーロッパ統合の象徴や実験の場という感覚があります。小さな国ですが国際的な会議やイベントが多く、多様な価値観が共存しています。働かない、働きたくないという人も結構多く、2年働いたら失業保険で2年暮らすことを繰り返すような人もいて驚きました。アントワープは小さな町で、独立して小規模なビジネスを営む人が多く、フリーランスやクリエイターが集まる独特の雰囲気があります。

3. 海外から見た日本のものづくりの現状と課題

ちひろ(日本)
みなさん、それぞれの国で“ものづくり”や“建築業界”に関わってきて、日本の現状や課題についてどんなふうに感じていますか?

みっちー(シンガポール)
日本のものづくりは世界でも格段にレベルが高いのに、説明やブランディングが苦手で、マーケットできていないと感じます。たとえば、現地の伝統工芸体験ツアーで日本の職人や作品を紹介する際、職人自身が自分の技術や作品を語るのが苦手で、海外の顧客に十分に魅力が伝わらないことが多いです。モノを見せるだけでは不十分で、どんな思いとストーリーを背負っているのか、相手にわかるように伝える努力が必要です。現地のマーケットや展示会では、ストーリーやブランド価値を積極的に発信することが重要だと感じています。

いづみ(ベルギー)
ベルギーはものづくりをやめてしまった国で、昔は特産品だった織物やカーペットなど今国内ではほとんど作られなくなりました。新しいものを作りたいなら海外を探すしかないのです。日本でものづくりをする時、年齢が上の職人の方が新しいことに挑戦してくれる印象があります。たとえば新しいテキスタイル技法を試したいとき、若い世代からは簡単に断られたりするのですが、ちょっと年配の職人に相談すると「面白いね」となんとか実現できるように積極的にアイデアを出してくれたりするので、若い世代はものづくりにあまり関心がないのかと思うことはあります。

なおり(フランス)
日本の中小企業がフランスに進出する際、質は高いが現地需要を考えた商品開発や説明が必要だと感じます。たとえば、フランスの展示会で日本の伝統工芸品を紹介する際、現地のバイヤーや来場者から「なぜこの商品が必要なのか」「どんなストーリーがあるのか」と問われることが多いです。単に「日本製だから良い」では通用せず、現地のライフスタイルや価値観に合わせた提案や説明が求められていると感じます。

まり(中国)
中国でも日本製品は品質が高いと評価されていますが、もっと自信を持って売ればいいのにと思います。たとえば、現地のクライアントから「日本製は壊れにくい」「品質が安定している」と高評価を受けることが多いですが、日本側が積極的に売り込む姿勢が弱いと感じます。

ちひろ(日本)
「日本品質」は世界的にも高く評価されているのに、ブランディングや発信の部分で損をしてしまうのは本当にもったいないですよね。日本製品の信頼とブランドは前世代が培ってくれたものという話もありましたが、私たちはその恩恵に預かっているギリギリの世代として、その価値やストーリーをしっかり伝えていくことが必要ですね。

 

4. 各国の女性観・男女平等

ちひろ(日本)
日本でも最近、女性の活躍についてさまざまな議論や取り組みが増えてきていると感じますが、みなさんの国や現場ではどのような状況でしょうか?

いづみ(ベルギー)
ベルギーでは女性の地位について議論になること自体が少なく、久々にこういうフレーズを聞きました。ベルギーは人件費が高く家事の外注といっても掃除を頼む程度。男女問わず平日は、味付けされてあとは焼くだけという肉製品や惣菜を買って帰るのが一般的で家事に時間を取られない文化。前菜の簡単なスープを作るくらいで、うちはちゃんとした料理を作ってくれると子供が思う環境です。家事や育児を「女性の役割」と捉える意識が薄く、性別に関係なく自分のキャリアやライフスタイルを選択できています。

なおり(フランス)
フランスでも男女平等がしっかりしていて、「女性だから子育てをしなければ」という考えはほとんどありません。家事や育児も男女で分担するのが普通です。
さらに、フランスでは性別だけでなく、年齢や国籍、障害の有無なども含めた多様性がとても大事にされています。たとえば、公共事業の入札や企業の採用では、男女比だけでなく、多様な人材が活躍できるようにすることが義務付けられており、さまざまな背景を持つ人が働きやすい環境が整っています。

まり(中国)
中国は夫婦別姓が普通で、女性の社長や役員も多く、男女平等が進んでいます。家政婦さんが安価に雇えるため、女性が働きやすい。たとえば、現地の建築事務所では、女性スタッフがプロジェクトリーダーとして活躍する場面が多く、性別による役割分担がほとんどない。家庭でも、家事や育児を外部に委託することが一般的で、女性がキャリアを継続しやすい環境が整っています。身近なところだと、役職関係なく女性が重い荷物を持っていれば男性が持ってくれたり、性が異なることに対する心遣いはきちんとありますね。

みっちー(シンガポール)
シンガポールも中華系が多く似ていて、家事を社会が補完する仕組みがあり、働く女性が活き活き活躍しています。たとえば、子育て介護世帯の多くがヘルパーを雇い入れやすく、共働き家庭でも家事や育児の負担を分担しています。職場でも、子育て中の女性が管理職や経営層として活躍している例が多い。日本で子育てをしながら仕事と両立していた時期は大変でしたが、シンガポールに来てだいぶ働きやすくなったと感じます。

ちひろ(日本)
ヨーロッパでは無意識になるほど男女平等が浸透しており、アジアでは社会や制度面の整備が進んでいる印象ですね。これらをお手本に日本の環境もより改善していきたいですね。

 

5. 各国の特徴・お国自慢

なおり(フランス)
フランスは美術館や文化施設が多く、芸術や文化に敏感で繊細な人が多い国です。素晴らしい展覧会やバレエ、演劇なども身近で気軽に楽しめる環境が整っており、展覧会の仕事をしている私にとってはぴったりの場所です。
また、フランスやヨーロッパはエコ意識が高く、建築や物を長く大事に使う文化が根付いていて、私も日々刺激を受けながら勉強しています。

まり(中国)
逆に中国はどんどんモノを買って捨てています。消費文化で経済を回している側面が大きい。一方で中国の人々はとても勤勉で努力家です。子どもの頃から勉強熱心で、大人になってからも意欲を持って生涯学習や自己研鑽を続ける人が多い。失敗してもすぐに切り替えて前向きに進むポジティブさがあり、転職も一般的で、合わなければすぐに新しい職場を探すのが普通。長く同じ会社に勤める人は少なく、3~5年で転職する人が多い。仕事を辞めることもネガティブに捉えず、次のステップとして受け入れる文化があります。

みっちー(シンガポール)
シンガポールは「レッドドット」と呼ばれるほど小さな国ですが、多民族・多宗教社会で、さまざまな文化がこの小さい都市に共存しています。戦争が続いている世界の中で、違う民族が調和して暮らす術は見習うべきところが多いと思っています。国の政策として、団地(HDB※)には必ず複数の民族がある割合で住むように設計されており、違う価値観を持つ人々が平和に暮らせる社会インフラが整えられています。食文化も多様で、茶道・生け花など日本文化も受け入れられやすく、異文化交流が盛んです。

いづみ(ベルギー)
ベルギーはフランス、ドイツ、オランダと強国に挟まれて歴史的に侵略される側にいた国です。そのためか控えめな印象があり、目立たないことが美徳とされています。留学したての頃、学生が行く地味なカフェで、隣に有名ファッションデザイナーが普通に座って静かに話しているのに驚きました。富があってもそれを目立つようなことには使いません。服装や行動も同様です。そういった価値観は品がよくて気に入っている点でもあります。

さえ(日本)
日本というフィルターを通して国をみるのと、肌感で感じた国の実感を聞くのは大分違って、とても面白いですね。シンガポールの社会的責任や役割ありきでの自由と、中国での自由が少し似ているところがあったり、逆にとても近いと思っていたフランスとベルギーが全くちがっていたり…固定観念にとらわれないで、世界の情報にオープンでいたいな、と改めて感じました。

 

6. 学生へのメッセージ

さえ(日本)
最後に、学生の皆さんに向けて海外の先輩からのメッセージをお願いします。

まり(中国)
日本の中だけでなく、ぜひ海外にも目を向けてほしいです。中国の若者は失敗を恐れず、合わなければすぐに新しい道を探す柔軟さがあります。学生のうちにいろんな経験をして、自分なりの答えを探してほしい。世界には本当に多様な価値観や生き方があるので、ぜひ自分の可能性を広げてください。

いづみ(ベルギー)
アントワープのような小さな町でも、面白いことをやっていれば見つけてもらいやすい時代です。ですから場所にとらわれず、自分のやりたいことを大切にしてほしいです。やりたいことができて、楽しく生きられるよう、戦略的に住む国を決めることだって可能です。そういう自由を手に入れて欲しいと思います。

なおり(フランス)
これからの時代は、国や場所に縛られることが少なくなっていくと思います。「ここに住まなければいけない」という考えにとらわれず、自分の価値観や生き方、社会を自分で選べるということを知ってほしいです。
いろいろな文化や考え方に触れることで、自分の視野も広がります。恐れずに挑戦してみたり、いろんなことに興味を持って取り組むことで、自分にとっての「やりたいこと」や「大切なこと」を主体的に見つけてほしいと思います。

みっちー(シンガポール)
世界には自分とは違う価値観や社会経済システムがたくさん存在します。学生のうちに、ぜひ海外に出ていろいろな価値観に触れてほしいです。
今は学生が海外に出て学ぶための助成金や奨学金、各種制度が充実しています。積極的に利用していろんな社会の仕組みに触れ、自分の進みたい道、住みたい社会を自ら選び取っていってください。日本の中だけで悩んでいたことも、外から見ると違った景色に見えることがあります。

 

おわりに
本座談会を通じて、海外で活躍する日本人女性たちが、それぞれの国で感じた価値観や働き方の違い、そして学生や若い世代へのエールを率直に語り合いました。多様な社会で生きることの楽しさや難しさ、そして自分らしく生きることの大切さが、参加者全員の共通したメッセージです。
これからグローバル社会で活躍したいと考える学生や若い世代にとって、本座談会の内容が少しでもヒントや勇気になれば幸いです。

川邊 真代(かわべ みちよ)
2001年より吉村靖孝建築設計事務所を運営しながら不動産企画会社を設立。2008年に海辺のリゾート貸別荘「Nowhere resort」、2014年に別荘民泊プラットフォーム「STAYCATION」を創設。その後、シンガポールを拠点にインバウンド向けプライベート旅行を提案するTravel Agency「Michi & Co.」を共同設立し、日本文化をアジア中心に発信。シンガポールで展覧会やイベントを主催し、旅館ホテルや自治体と連携した企画・販売コンサルも行う。

山添 奈織(やまぞえ なおり)
一級建築士
2002年、文化庁在外研修員としてフランス・パリのアトリエ・ジャン・ヌーヴェルにて研修。その後、同事務所に勤務。2006年よりSANAAによるルーヴル・ ランス建設プロジェクトに参加。2015年、パリにて展覧会空間のデザイン(セノグラフィー)を専門とし、グラフィックまで幅広く手がけるデザイン事務所 AtoY を設立。以降、フランス国内の美術館における企画展デザインや、ルーヴル・ ランス常設展の全面改装(2024年)などを手がける。

本郷 いづみ(ほんごう いづみ)
ファッション/ニット/インテリアテキスタイルデザイナー
2001-2005年(株)博報堂クリエイティブ局勤務。2005年かねてよりの憧れだったアントワープ王立芸術アカデミーにファッション留学。2010年の卒業と同時に、ベルギーにて自身のブランドVAN HONGOをスタート。年に二回展示会形式でコレクションを発表している。2017年からファッションデザインに加えて、インテリアテキスタイルのデザインを開始。ベルギーや日本の建築家と協働している。

佐々木 真理(ささき まり)
一級建築士
2001年より神奈川県厚木市の株式会社日比野設計に勤務。2016年より同社取締役、2018年日比野設計(深圳)有限公司設立、同社董事として中国広州事務所にて中国およびその他海外プロジェクトの担当。幼児施設および高齢者、障碍者等の福祉施設の設計を得意とする。日本と中国を行き来しながら世界の子ども教育環境改善に尽力している。

村上 佐恵子(むらかみ さえこ)
ariadesign代表、NPOうみもりそら代表理事。
建築家、フィールドデザイナー

岩間 ちひろ(いわま ちひろ)
株式会社NTTファシリティーズ勤務
データセンターエンジニアリング事業本部 クライアントリレーション部 第一法人部門長
一級建築士

■ 専門用語の説明
● セノグラファー
展示会やイベントなどで、空間全体のデザインや演出を手がける専門家。展示物の配置や照明、動線計画などを総合的に設計します。
● ビスポークトラベルエージェント
顧客一人ひとりの希望や目的に合わせて、完全オーダーメイドで旅行プランを企画・手配する旅行代理店やその担当者のことを指します。
● HDB(Housing & Development Board)
シンガポールの公営住宅制度。多民族・多宗教社会の調和を図るため、団地ごとにさまざまな民族が共存できるよう設計されています。